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書名 : 宋人文集の編纂と伝承
編著者 : 東英寿編
出版社 : 中国書店
定価 : 8,000 円
出版年 : 2018/03 月

 中国の宋代(960~1279年),木版印刷術の発展により文人や編纂者たちの意識は大きく変わり,多種多様な文集が制作された。それらはいかにして後世に伝えられたのか。編纂と伝承の実相を,緻密な文献考証をもとに明らかにする。
 厳しい言論統制下で蘇軾の詩はどのようにして伝えられたのか。晏幾道の詞に次韻した詞の特色とは。また,歐陽脩とその全集の編纂者・周必大が手掛けた文集の制作過程を考察。
 さらに,海を渡り,室町時代の日本に伝わった漢籍の受容についてや,文学が伝わる上での絵画の役割,歌辞文芸である「詞譜」に見る萬樹が与えた影響など,宋人文集から広がる豊潤な研究フィールドでの論考をまとめた示唆に富む一書。











■目次
 序文:編纂と伝承のフィールドワーク 東 英寿
Ⅰ 総 説
 詩集の自編と出版から見る、唐宋時代における詩人意識の変遷 内山精也
  メディア変革と詩集自編の普遍化:初唐から北宋末まで
  南宋中期の出版業隆盛がもたらした新たな展開:宋代士大夫の詩人認識とその変質
  南宋後期における詩人と編者、書肆:江湖小集刊行の意味すること
Ⅱ 編 纂
 言論統制下の文学テクスト:蘇軾の創作活動に即して 浅見洋二
 『和晏叔原小山樂府』をめぐって 萩原正樹
 周必大の『歐陽文忠公集』編纂について 東 英寿
 范仲淹の神道碑銘をめぐる周必大と朱熹の論争:歐陽脩新発見書簡に着目して 東 英寿
 『聯珠詩格』は『新選集』の典拠か:『連集良材』所收、戴復古「子陵釣臺」詩を端緒に 中本 大
Ⅲ 伝 承
 歐陽脩『近体楽府』の成立とその伝承:もう一つの『近体楽府』 東 英寿
 鶴に乘る「費長房」:本邦における漢畫系畫題受容の一側面 中本 大
 「十雪詩」のゆくえ 中本 大
 「詞譜」の誕生と發展 萩原正樹
編集後記/執筆者紹介


■執筆者紹介(掲載順)
東 英寿(ひがし・ひでとし)
1960年,福岡県生まれ。九州大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。九州大学大学院比較社会文化研究院教授。
【主著】『歐陽脩研究新見─新発現書簡九十六篇』(台湾,花木蘭出版社,2015年),『歐陽脩新発見書簡九十六篇─歐陽脩全集の研究』(研文出版,2013年),『復古与創新─歐陽脩散文与古文研究』(上海古籍出版社,2005年)

内山精也(うちやま・せいや)
1961年,新潟県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。早稲田大学教育・総合科学学術院教授。
【主著】『廟堂与江湖 宋代詩学的空間』(復旦大学出版社,2017年),『蘇軾研究 宋代士大夫詩人の構造』(研文出版,2010年),『伝媒与真相─蘇軾及其周囲士大夫的文学』(上海古籍出版社,2005年)

浅見洋二(あさみ・ようじ)
1960年,埼玉県生まれ。東北大学大学院文学研究科博士課程後期中途退学。博士(文学)。大阪大学大学院文学研究科教授。
【主著】『文本的密碼─社会語境中的宋代文学』(復旦大学出版社,2017年),『中国の詩学認識』(創文社,2008年),『距離与想象─中国詩学的唐宋転型』(上海古籍出版社,2005年)

萩原正樹(はぎわら・まさき)
1961年,滋賀県生まれ。立命館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。立命館大学文学部教授。
【主著】『「詞譜」及び森川竹磎に関する研究』(中国芸文研究会,2017年),『杜甫全詩訳注(四)』(共著,講談社学術文庫,2016年),『森川竹磎『詞律大成』本文と解題』(風間書房,2016年)

中本 大(なかもと・だい)
1965年,福岡県生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。立命館大学文学部教授。
【著書】『名庸集 影印と解題』(思文閣出版,2013年)
【論文】「室町時代五山禅林は歌壇・連歌壇に何をもたらしたか─漢語「濫觴」の受容における五山禅林文壇の影響─」(『禅からみた日本中世の文化と社会』天野文雄監修,ぺりかん社,2016年),「アトリビュートとしての「芭蕉題詩」─懐素図・寒山図から郭子儀図へ」(アジア遊学122,2009年)


■序文より(一部抜粋)
 本書のタイトル「宋人文集の編纂と伝承」に言う「宋人文集」とは、中国の宋(九六〇~一二七九)という時代を生きた文人達の文集という意味で、「文集」は詩文集、別集、あるいは全集と置き換えることもできる。宋代の文人達の詩、散文、書簡、雑記等が収録された文集が、当時どのように編纂されて、後世にいかに伝承していったのかを考察することが本書の目的である。
 中国の近世は宋代に始まることを提唱した内藤湖南の説を承けて、宮崎市定は宋代を中国におけるルネッサンス期とみなして、その成果として儒学の復興、文体の改革(古文復興)、羅針盤・火薬等の発明にみられる科学の発達、南画・北画を代表とする芸術の大成とともに、印刷術の発展をあげる。宋代には木版印刷が画期的な発展を遂げた。すなわち、宋代の木版印刷はそれ以前の書写本とは比べものにならないほどの大量複製を可能にし、それを受容する読者層が出現し、そのため民間の書肆が販売を目的に盛んに出版を行うに至る。本書で内山は「中国は近代以前に、①〈竹帛〉から〈紙+毛筆〉へ(三国時代の前後)、②〈写本+巻子本〉から〈刻本+冊子本〉へ(唐宋の間)、という二度のメディア変革を体験した」として、宋代は中国における第二次メディア変革の時期だと指摘する。写本から刻本へというメディアの変化は、当時の文人達にも大きな影響を与え、彼らは自覚的に「文集」の整理編纂に取り組むようになり、その結果として、宋代及びそれ以降に有力な文人を中心に多種多様な「文集」が、次々と「編纂」され、またそれが多種多様な形で「伝承」されていく。本書が、宋代という時代をフィールドにし、「文集」の「編纂」と「伝承」に着目した所以である。 
 ところで、本書におけるそれぞれの考察は、一見すると研究室や図書館、書斎等で行われる文献研究の成果であり、たとえば文化人類学、民俗学等の研究者が行うフィールドワークとは対蹠的な考察手法だと思われるかも知れない。フィールドワークでは、とにかく現地に行き、見聞きしたことをまとめ、自分なりの感性で面白いことを見つけ出し、次にそれを調査して考察し論文としてまとめるという手順を踏むのであろう。
 私は本書の編集を通して、本書はもちろん文献研究であるが、それだけでなくフィールドワークとして捉えることも十分に可能ではないかと思い至った。宋代社会というフィールドに赴こうとする、過去の世界にまつわるフィールドワークと言えるのではないだろうか。我々の現在の日常とは違う、非日常の世界(それは当時の日常)を理解しようという試みである。本書の各論は、宋代の資料に触発されて、「文集」の「編纂」と「伝承」という主題のなかで、自らの感性で面白いというテーマを見つけ出してそれを解明しようとする。それは、それぞれの研究者が宋代というフィールドを中心として過去の実像に迫る試みだと言うこともできよう。





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