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書名 : 中国国民性の歴史的変遷―専制主義と名誉意識
編著者 : 張宏傑著/小林一美ほか訳
出版社 : 集広舎
定価 : 3,400 円
出版年 : 2016/03 月

張宏傑 著
小林一美・多田狷介・土屋紀義・藤谷浩悦 訳
小林一美 解題

中華数千年の専制体制と古代・中世貴族・武人の「名誉意識」との凄絶にして長大なる闘争! 中国人の「国民性」なるものとは何か?
その非人間的な負のシステム・歴史遺産を剔抉し、それらと悪戦苦闘した梁啓超・魯迅・胡適から孫文・蒋介石・毛沢東までの政治思想を再検討!
著者は中国モンゴル族出身の気鋭の歴史家、作家。

【目次】
第一編 中国国民性の歴史的変遷 
 
第一章 エロシェンコと李鴻章 
第二章 国民性は変えられるか 
第三章 春秋時代の「貴族精神」  
第四章 復元できない「黄金時代」
第五章 貴族精神の喪失 
第六章 純朴な気質が残っていた「漢代の人々」 
第七章 失われた魏・晋時代の風流 
第八章 大唐帝国の雄姿と栄光 
第九章 平民の盛世、宋代 
 第一節 文弱の宋朝  
 第二節 平民社会の崛起 
第十章 モンゴル鉄騎、中国民族の背骨を折る 
第十一章 「ゴロツキ王朝」となった大明帝国 
第十二章 清代 

第二編 中国国民性の源流 

第十三章 専制の起源 
 第一節 その専制の根源を追究する 
 第二節 中西文化の差異の第一の推進力 
 第三節 王の出現 
 第四節 中国の独自性の起源 
第十四章 始皇帝:歴史が産み落としたもの 
 第一節 凶暴な男 
 第二節 統一運動の最終ランナー(仕上げ人)としての始皇帝 
 第三節 専制構想の執行者 
 第四節 君主専制の分娩過程:戦国時代の改革運動 

第三編 中国国民性改造史
 
第十五章 国民性改造の基礎を築いた人 
第十六章 魯迅—国民性改造運動の旗手 
第十七章 胡適の国民性改良の思考
第十八章 胡適の漸進的改造の路線 
第十九章 「思想革命」式の国民改造の道


◆著者 張宏傑(Zhang Hongjie)
中国蒙古族。1972年遼寧省に生まれる。東北財経大学(経済学学士)、復旦大学(歴史学博士)及び清華大学で歴史学を学ぶ。作家、歴史家。中国作家協会会員。主要著書『大明王朝的七張面孔』(2006年、広西師範大学出版社)、『中国人的性格歴程』(2008年、陝西師範大学出版社)、『乾隆帝的十張面孔』(2010年、台湾究竟出版社)
『曾国藩的正面与側面』(2011年、国際文化出版公司)、『坐天下很累』(2012年、吉林出版集団有限公司)、『飢餓的盛世—乾隆時代的得与失—』(2012年、湖南人民出版社) 他多数。韓国、台湾でも訳書が出版されている。

◆翻訳・解題 小林一美(こばやし かずみ)
1937年長野県に生まれる。東京教育大学大学院文学研究科博士課程(東洋史学専攻)単位取得退学。現在、神奈川大学名誉教授。著書『義和団戦争と明治国家』(汲古書院、1986年初版、2008年増補版)、『清朝末期の戦乱』(新人物往来社、1992年)、『中華世界の国家と民衆(上・下)』(汲古書院、2008年)、『わが心の家郷、わが心の旅』(汲古書院、2006年)。『M・ヴェーバーの中国社会論の射程』(研文出版、2012年)、『中共革命根拠地ドキュメント』(御茶の水書房、2013年)。共編著『中国民衆反乱の世界』(汲古書院、正編1974年、続編1983年)、『東アジア世界史探究』(汲古書院、1986年)、『ユートピアへの想像力と運動』(御茶の水書房、2001年)。訳書『大唐帝国の女性たち』(著者・高世瑜、任明と共訳、岩波書店、1999年)、「嘉慶白蓮教の叛乱」(「東洋文庫」408『中国民衆叛乱史3』所収、1982年))。



真剣な中国での国民性論
中華帝国復興の幻想を国民の人格、道徳、文化の問題としてとらえる

『中国国民性の歴史的変遷』書評

 国民性論とか民族性論というのはしばしば大きな話題となる。戦後の日本でもルイス・べネディクトの『菊と刀』、イザヤ・ベンダサン(山本七平)の『日本人とユダヤ人』、中根千枝の『タテ社会の人間関係』などが注目を集めた。だが近代中国における国民性論ほど、議論のタネとしてではなく、真剣かつ深刻な議論、場合によっては政治問題とさえなってきたものはないだろう。19世紀半ば以降の中華世界の凋落(ちょうらく)の原因を劣悪な国民性に探るのが近代の中国思想界の大きな潮流となって今も続いている。
 その最新の一冊である張宏傑著『中国国民性演変歴程』(2013年、湖南人民出版社)がこのほど邦訳本『中国国民性の歴史的変遷』(小林一美ほか訳、16年3月、集広舍)として出版された。同書の特徴は国民性を不変のものとしてではなく、時代によって変化してきたことを指摘していることである。訳者の要約によれば、中国の国民性は、始皇帝以前は開放的で、文武両道を備えていた。始皇帝の登場で皇帝独裁が始まったが、唐代までは貴族精神があった。宋代以降となって北方民族の侵攻もあり、国民は名利、利得の獲得に狂奔し無頼漢が横行するようになったという。
 確かに清末の「中体西洋論」(中華を本質とし、西洋文明を手段とする)が挫折して以降、中国知識人の多くは「劣化した」国民性をいかにただすかを課題とし、さまざまな方策を打ち出してきた。清末の梁啓超(りょうけいちょう)に始まり、孫文、蒋介石、毛沢東らすべて中国の改革を目指す人々は「国民性」の改良に大きな努力を払ってきた。その中で最も深刻なのは文学者の魯迅が『阿Q正伝』で示した中国人の「奴(隷)性」であり、壮大な悲劇に終わった毛沢東の文化大革命もその原点は幻想的ユートピア社会であった。
 私は、国民性の問題は、本書のようにその時代的変化を追及するにしても、なにか儒教的修身論の延長のように思われるし、国民性とか民族性といっても中国に時代を超えて国民とか民族が存在したのかといる疑問がある。ただ当面の中華帝国復興の幻想が国民の人格、道徳、文化の問題としてとらえられているところが、まことに「中国的」だと思われれてくる。(辻 康吾・元獨協大学教授)「週刊エコノミスト 2016・05・30
海外出版事情 中国 

真剣な中国での国民性論
中華帝国復興の幻想を国民の人格、道徳、文化の問題としてとらえる

『中国国民性の歴史的変遷』書評

 国民性論とか民族性論というのはしばしば大きな話題となる。戦後の日本でもルイス・べネディクトの『菊と刀』、イザヤ・ベンダサン(山本七平)の『日本人とユダヤ人』、中根千枝の『タテ社会の人間関係』などが注目を集めた。だが近代中国における国民性論ほど、議論のタネとしてではなく、真剣かつ深刻な議論、場合によっては政治問題とさえなってきたものはないだろう。19世紀半ば以降の中華世界の凋落(ちょうらく)の原因を劣悪な国民性に探るのが近代の中国思想界の大きな潮流となって今も続いている。
 その最新の一冊である張宏傑著『中国国民性演変歴程』(2013年、湖南人民出版社)がこのほど邦訳本『中国国民性の歴史的変遷』(小林一美ほか訳、16年3月、集広舍)として出版された。同書の特徴は国民性を不変のものとしてではなく、時代によって変化してきたことを指摘していることである。訳者の要約によれば、中国の国民性は、始皇帝以前は開放的で、文武両道を備えていた。始皇帝の登場で皇帝独裁が始まったが、唐代までは貴族精神があった。宋代以降となって北方民族の侵攻もあり、国民は名利、利得の獲得に狂奔し無頼漢が横行するようになったという。
 確かに清末の「中体西洋論」(中華を本質とし、西洋文明を手段とする)が挫折して以降、中国知識人の多くは「劣化した」国民性をいかにただすかを課題とし、さまざまな方策を打ち出してきた。清末の梁啓超(りょうけいちょう)に始まり、孫文、蒋介石、毛沢東らすべて中国の改革を目指す人々は「国民性」の改良に大きな努力を払ってきた。その中で最も深刻なのは文学者の魯迅が『阿Q正伝』で示した中国人の「奴(隷)性」であり、壮大な悲劇に終わった毛沢東の文化大革命もその原点は幻想的ユートピア社会であった。
 私は、国民性の問題は、本書のようにその時代的変化を追及するにしても、なにか儒教的修身論の延長のように思われるし、国民性とか民族性といっても中国に時代を超えて国民とか民族が存在したのかといる疑問がある。ただ当面の中華帝国復興の幻想が国民の人格、道徳、文化の問題としてとらえられているところが、まことに「中国的」だと思われれてくる。(辻 康吾・元獨協大学教授)「週刊エコノミスト 2016・05・30
海外出版事情 中国 

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真剣な中国での国民性論
中華帝国復興の幻想を国民の人格、道徳、文化の問題としてとらえる

『中国国民性の歴史的変遷』書評

 国民性論とか民族性論というのはしばしば大きな話題となる。戦後の日本でもルイス・べネディクトの『菊と刀』、イザヤ・ベンダサン(山本七平)の『日本人とユダヤ人』、中根千枝の『タテ社会の人間関係』などが注目を集めた。だが近代中国における国民性論ほど、議論のタネとしてではなく、真剣かつ深刻な議論、場合によっては政治問題とさえなってきたものはないだろう。19世紀半ば以降の中華世界の凋落(ちょうらく)の原因を劣悪な国民性に探るのが近代の中国思想界の大きな潮流となって今も続いている。
 その最新の一冊である張宏傑著『中国国民性演変歴程』(2013年、湖南人民出版社)がこのほど邦訳本『中国国民性の歴史的変遷』(小林一美ほか訳、16年3月、集広舍)として出版された。同書の特徴は国民性を不変のものとしてではなく、時代によって変化してきたことを指摘していることである。訳者の要約によれば、中国の国民性は、始皇帝以前は開放的で、文武両道を備えていた。始皇帝の登場で皇帝独裁が始まったが、唐代までは貴族精神があった。宋代以降となって北方民族の侵攻もあり、国民は名利、利得の獲得に狂奔し無頼漢が横行するようになったという。
 確かに清末の「中体西洋論」(中華を本質とし、西洋文明を手段とする)が挫折して以降、中国知識人の多くは「劣化した」国民性をいかにただすかを課題とし、さまざまな方策を打ち出してきた。清末の梁啓超(りょうけいちょう)に始まり、孫文、蒋介石、毛沢東らすべて中国の改革を目指す人々は「国民性」の改良に大きな努力を払ってきた。その中で最も深刻なのは文学者の魯迅が『阿Q正伝』で示した中国人の「奴(隷)性」であり、壮大な悲劇に終わった毛沢東の文化大革命もその原点は幻想的ユートピア社会であった。
 私は、国民性の問題は、本書のようにその時代的変化を追及するにしても、なにか儒教的修身論の延長のように思われるし、国民性とか民族性といっても中国に時代を超えて国民とか民族が存在したのかといる疑問がある。ただ当面の中華帝国復興の幻想が国民の人格、道徳、文化の問題としてとらえられているところが、まことに「中国的」だと思われれてくる。(辻 康吾・元獨協大学教授)「週刊エコノミスト 2016・05・30
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