書名 : 九億農民の福祉-現代中国の差別と貧困
編著者 : 王文亮著
出版社 : 中国書店
定価 : 4,600 円
出版年 : 2004/10 月
A5判上製589ページ
中国沿海部におけるすさまじいまでの経済発展と、それ に対する内陸部の著しい立ち遅れは、あらゆるメディアで 喧伝され論考されている。しかし本書のように、農村の側 面に立ち、ここまで詳細かつ広汎潤沢な資料・統計を駆使 して問題点を剔出したレポートは見当たらない。
本書は、現在の中国における三農(農業、農民、農村)問題に基づく農村生活の貧困を社会保障との関連で論じたものである。とくに都市における生活者の社会保障との違いが、平等と人権の観点から見てきわめて不公平、不合理であることに対し、国家責任としての社会保障の今後の明確化について論じ、また具体的なあり方について述べたものである。
(一番ヶ瀬康子教授 序文より)
筆者は中山大学・中国社会科学院を経て1989年来日し、 大阪市立大学で文学博士号を取得、現在九州看護福祉大 学で教鞭を取る少壮学者。福祉関係について、日本との全 般的比較考察を含め適役の論客と言えよう。いわゆる三農 (農業・農村・農民)問題を論ずる筆者の姿勢は、江西省 広豊県の農村に出自を持つだけに、決して中央政府の公式 見解をなぞることなく、果敢に既存の政策・制度を逐一槍 玉に挙げ、九億農民が希求する真実の人民共和国中国の在 り方を指向してみせる。
全文約590ページにおよぶ労作だが、1都市と農村の二重 構造 2農村地域の家族養老 3農村社会保障制度 の三章に 分けて現状をつぶさに分析してあるので、論旨の展開は明 快。それによると、三農と都市との巨大な断層は、政策的 意図から生じた人権軽視の悪評高い二重戸籍制度にはじま ると指摘する。農村に戸籍を固定され、都市への移動も職 業の選択も厳しく制限された現行戸籍制度は、税金・各種 負担金・計画出産・高齢者扶養・医療保障制度・年金問題 等々‥すべての面で都市との差別が存在しており、それが 貧困、生活格差に結び付いていると説く。同時に、これま での中央為政者と地方行政権力の怠慢、ひいては目に余る 腐敗ぶりを衝き、「三農」のために今後中国がいかなる制 度的手術を施すべきかを提言している。
なお、巻末の現代中国福祉関連年表は、専門研究者のみな らず、一般読者にとっても資料整理のための便利な指針と なるだろう。
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