書名 : 現代中国社会保障事典
編著者 : 王文亮著
出版社 : 集広舎
定価 : 6,600 円
出版年 : 2010/08 月
中華人民共和国建国(1949年)から今日に至るまで、現代中国の社
会的、政治的変動とともに日々変化してきた社会保障およびそれ
を取り巻く社会現状・社会政策の諸事情や諸問題を紹介、説明、
検討した世界初の事典。
各編に関連法規日本語訳を附す。
目 次
序
第1編 社会保険
第2編 公的扶助
第3編 社会福祉
第4編 軍人優遇
第5編 社会・社会保障一般
参考文献 現代中国社会保障関連年表
索引(ピンイン順)
中国進出の日本企業にも役立つ必携文献―『現代中国社会保障事典』
【コラム】 2011/02/02(水)
中国では近年、好調な経済成長と持続的な国民所得の増加に伴い、大国に相応しい社会保障制度の整備が加速している。とりわけ胡錦涛政権が「調和社会」という国家ビジョンを打ち出した以降、中国は発展途上国として前人未踏の大事業である「国民皆保険・国民皆年金」体制の構築にも乗り出した。それに対しては、内外から高い関心が寄せられている。
中国に進出している日本企業にとっても、従業員の賃金や福利厚生はいうまでもなく大きな関心事である。それだけではなく、従業員の年金、医療、失業、労災、出産に関連する社会保険の加入も大きな課題となっている。
以上のような各種の社会保険が社会保障制度改革の成果として徐々に整備されてきたことは、中国の企業のみならず、中国に進出している外国企業も制度に基づいて社会保障関係費(例えば保険料)を支払わなければならないことになった。特に企業数が圧倒的に多い日本企業にとって中国の社会保障制度を的確に理解することは避けて通れない。実際、社会保障制度や負担費目および負担料率が頻繁に変更されるため、企業の側に戸惑いや対応し切れないことはよく発生している。
広東省で日経企業に対して行われたあるアンケート調査によれば、社会保険に関して自由な意見として、社会保険基金の収支が不透明である、従業員は恩恵を受けられることを信用していない、頻繁な変更のため手続きや従業員への説明が大変である。負担の引き上げについて事前通達がなく予算を組んでいないので対応に困る、負担増大が大きすぎベースアップを抑制せざるをえない、などの意見が出されている。このように、社会保険制度に加入している日系企業の中には、制度の信頼性や透明性に疑問や不安を抱く声が少なくない(大塚正修・日本経済研究センター編『中国社会保障改革の衝撃』勁草書房2002年、158頁)。
このような状況を改善するためには、日系企業はまず中国の社会保障制度を十分に理解し、的確に対応できるようにしておかなければならないだろう。一方、中国の社会保障制度体系は日本のそれと大きく異なっており、中国語の壁も高いため、中国で関連法規や政府の公文書を一々探すのは非常に困難なことである。実際、つい最近まで、一冊にまとまった、使い勝手もよい中国社会保障手引のような書物は皆無だった。日本のみならず、中国国内でもそうだった。
このような状況を少しでも改善しようとして、筆者はこれまでに蓄積してきた一連の研究成果をまとめ、2010年8月に『現代中国社会保障事典』という本を出版した。出版元は中国関連書籍の輸入を手掛けており、近年出版業界にも進出し急速に頭角を現している集広舎(住所は博多市)である。
同『事典』は日本語で書かれており、日本や中国、さらに世界でも中国社会保障制度に関する初の事典である。その主な特徴といえば、まずやはり現行の中国社会保障制度を全面的かつ体系的に紹介している点である。第二は、専門性が高く、内容も極めて複雑な諸制度について専門外の一般人にも分かりやすいように解説していることである。第三は、日本人の実務家や日本企業のニーズに応える形で、現行の中国社会保障制度に関連する法規法律や公文書を最大限に網羅し和訳して各章の最後に附録している点である。以下は、『現代中国社会保障事典』の内容構成である。
序
第1編 社会保険
社会保険、医療保険、工傷(労災)保険、失業保険、生育保険、他
附録 関連法律法規日本語訳 (例:労災保険条例、労働保険条例、企業年金試行方法)
第2編 公的扶助
医療救助、敬老院、城市居民最低生活保障制度、農村居民最低生活保障制度、他
附録 関連法律法規日本語訳 (例:都市住民最低生活保障条例)
第3編 社会福祉
家庭寄養(里親)、家庭養老院、障害者就労、無障碍(バリアフリー)設計、他
附録 関連法律法規日本語訳 (例:障害者就業条例、福利企業資格認定方法)
第4編 軍人優遇
軍人障害等級判定基準、軍人優遇条例、優遇対象医療保障方法、他
附録 関連法律法規日本語訳 (例:傷痍軍人優遇管理方法)
第5編 社会・社会保障一般
最低賃金規定、全国社会保障基金、労働制度、労働保障監察条例、労働法、老齢産業化、他
附録 関連法律法規日本語訳 (例:女性権利保障法、高齢者権利保障法)
参考文献 現代中国社会保障関連年表
近年日本でも中国社会保障関連の学術書やテキストは少なからず出版されているが、中国社会保障体系の全体図を見通せるようなものがこれからますます求められるだろう。同『事典』はすでに中国に進出している、あるいはこれから進出する日本企業の切実な悩みを解決する一助になれば、と願ってやまない。(執筆者:王文亮 金城学院大学教授 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
著者について
中国江西省広豊県農村部出身。中国の中山大学大学院哲学研究科修士課程を修了。 大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程を修了、博士(文学)。 長崎純心大学より論文博士号(学術・福祉)授与。中国社会科学院、九州看護福祉大学を経て、現在、金城学院大学現代文化学部コミュニティ福祉学科教授、大学院文学研究科社会学専攻教授、人文・社会科学研究所所長。中国社会福祉研究会世話人などを兼務。 2009年1月フランスの第22回国際テレビ映像祭(FIPA)のルポルタージュ部門で最高賞の金賞、6月モナコの第49回モンテカルロ・テレビ祭のドキュメンタリー部門で最優秀賞をそれぞれ受賞したNHKスペシャル『激流中国-病人大行列~13億人の医療』の制作アドヴァイザーを務めた。『中国農民はなぜ貧しいのか』(光文社)/『九億農民の福祉』(中国書店)/『格差で読み解く現代中国』(ミネルヴァ書房)/『現代中国の社会と福祉』(編著)(ミネルヴァ書房)/『社会政策で読み解く現代中国』(ミネルヴァ書房)/『格差大国 中国』(旬報社)など著書多数。
|
|